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2020.03.27

【開催レポート】Disability and Business 〜インクルージョンが企業価値を高める〜

Photo by 難波由香
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2020年2月6日、東京・新宿の京王プラザホテルで、日本財団主催の公開セミナー「Disability and Business〜インクルージョンが企業価値を高める〜」が開催されました。

ビジネスリーダーへ、障害者インクルージョンを進めることを呼びかける「The Valuable 500」の創始者、キャロライン・ケイシーさんが登壇。さらに、職場環境やサービスで障害者インクルージョンを実施している企業の報告、調査結果の発表なども行われました。

セミナーには、「The Valuable500」に署名した日本企業15社も参加。一歩を踏み出す勇気と熱気に包まれた約2時間30分のプログラムを、ダイジェストでお伝えします。

障害者がビジネスで発揮する価値とは?キャロライン・ケイシーさんが語る

セミナーの主催者である、日本財団 常務理事の樺沢一朗さんの挨拶で、プログラムの幕が開けました。

樺沢
樺沢
日本財団では、創設から50年以上にわたり、総額1,300億円を投じて、障害者支援を続けてきました。東京オリンピック・パラリンピックは、障害者支援においてもなにを残せるかという、大きな節目だと考えています。
樺沢
樺沢
レガシーを残していく主役になるのは、日本の企業の皆さんです。ぜひこのタイミングで、多様性を尊重するインクルーシブな職場環境が、企業で広がってほしい。その種まきのつもりで、本セミナーを開催しました。
樺沢
樺沢
ですが、日本財団もインクルーシブな職場環境が整っているかと言うと、残念ながらまだ完全ではありません。今日は参加者の皆さんと一緒に、学び、気づきを得させてもらいたいと思います。最後までどうぞよろしくお願いします。

基調講演では、さっそくキャロライン・ケイシーさんが登壇。キャロラインさんは2週間前、ダボス会議(世界経済フォーラム)にて記者会見やパネルディスカッションを行ったばかりとのこと。

こんにちは。ちょっと緊張していますが、とても興奮しています。私の早口についてきてくれる通訳の方々、本当にありがとうございます!
キャロライン

ケイシーさんのお茶目な一言に、会場で歓迎の笑いが起きました。カラフルなブラウスと、ブルーのパンツに身を包んだキャロラインさん。足元はハイヒールです。

私は目が見えません。もしかしたら皆さんの目にはそう映らないかもしれないけど、本当です。ハイヒールもたまにびっくりされますが、大好きだから履いています。
キャロライン

キャロラインさんは、自身の体験から、世の中には障害者に対するレッテルがあると言います。

障害者は一人でなにもできないわけでも、ポテンシャルがないわけでも、劣っているわけでもない。ただ、仕事や生活のためにとっている方法が違うだけ。それでも障害者というだけでレッテルを貼られるのは、世界中でまだ、障害者が発揮する価値を認められていないからです。
キャロライン
だから私はThe Valuable500の活動を始めました。私は、障害者に限らず、すべての人間はユニークであり、価値があると信じています。
キャロライン

活動を始めたきっかけは、キャロラインさんのお父さんにあるそうです。キャロラインさんのご両親は、彼女の障害にレッテルを貼るのではなく、彼女の個性として向き合ってくれました。そのお父さんが3年前に突然亡くなったことで、キャロラインさんには勇気と使命感が生まれたと言います。

最初はみんな、私のことを頭がおかしい女と言いました。世界中で影響力のあるCEO500人を集め、障害者インクルージョンを経営会議のアジェンダに入れ、アクションを起こすのですから。
キャロライン
でも今や250人のCEOがThe Valuable 500に賛同してくれています。これは歴史的な動きです。しかも、その内の15社は日本の企業です。私は今日、日本の皆さんに心からお礼を申し上げたくて、やってきました。父もきっと、天国で笑って見てくれていると思います。
キャロライン
私は日本の企業の賛同を、15社から45社に増やしたい。The Valuable 500の参加企業の10%を日本の企業にしませんか。そのためには、皆さんの協力が必要です。
キャロライン

参加者に熱く呼びかけるキャロラインさん。本セミナーの目的の一つは、障害者インクルージョンについて世界的な潮流を知ってもらい、日本企業の理解と賛同を増やすこと。残念ながら、障害者インクルージョンがまだ企業で広まりきっていない理由は3つあると、キャロラインさんは説明します。

一つ目は、障害者が提供する価値に気づいていないこと。世界中には約10億人の障害者がいて、さらに家族や友人など、まわりに障害者がいる人は全体の50%。その購買力は8兆ドルに及びます。こんなにも大きなビジネスチャンスがあるのに、企業は気づいていないんです。
キャロライン
障害者はビジネスでイノベーションを生みます。例えば、皆さんが当たり前に使っているリモコン。あれは視覚障害者の声から誕生した製品です。さらにNetflixは聴覚障害者向けの副音声を独自に提供していますが、CSRやボランティアで始めたわけではありません。Netflixは競争力を高め、ブランドの差別化を行い、より多くの顧客から選ばれるために始めたんです。
キャロライン
二つ目は、企業が解決すべき課題において、障害者インクルージョンの優先順位が下がっていること。インクルージョンにはジェンダーや国籍など、いろんなトピックがあります。障害者に比べると、ジェンダーに関する運動の方がメジャーになり、優先される場合があります。でも本当は、優先順位をつけること自体が間違っているんです。
キャロライン
三つ目は、リーダーシップがなかったこと。障害者インクルージョンを進めていこうと働きかけるリーダーがいなかったのです。そのリーダーシップを、今ここにいる皆さんと一緒に、作っていきたいと思います。
キャロライン

障害者とビジネス。一見ギャップがあると思える言葉の並びですが、実際は障害者がビジネスにおいて、価値をもたらすことがわかりました。

障害者インクルージョンに、今こそ企業が取り組む意義について、キャロラインさんは説明します。

さまざまな価値を受け入れない企業を、若い人たちは受け入れなくなりつつあります。彼らはソーシャルメディアを使って声をあげ、テクノロジーでバリアを解消していく世代です。今や環境に配慮していない企業を若い人たちが支持しなくなったように、障害者インクルージョンでも同じことが起きるでしょう。
キャロライン
そして、障害者インクルージョンは、障害者のためだけではありません。私たちはみんな、年を取ればなんらかの形で障害を感じるようになります。すべての人は違いを持ち、目標を持ち、夢を持ちます。この活動は、みんなのためのものです。
キャロライン

少し感情的になってしまいました、と一息ついて苦笑いするキャロラインさん。彼女は基調講演の最後を、このように締めくくりました。

最後に言わせてください。日本の企業の皆さんには、諦めないでほしいんです。障害者インクルージョンをやりたいという意志があるかどうか、それが一番大切です。
キャロライン
私は前職・アクセンチュアを辞めた後、インドへ行きました。ずっと憧れていた、ゾウに乗るためです。カウガールにもなったし、モーターレースにも参加しました。意志があれば、なんだってできます。The Valuable500を大きなムーブメントにするため、皆さんの協力をお願いします!
キャロライン

障害者が企業にもたらす価値、その調査結果は

「障害インクルージョンの意義に関する調査結果の報告」を、アクセンチュア株式会社 マネージング・ディレクターの中村健太郎さんが発表しました。

アクセンチュアは世界で50万人もの社員を擁するコンサルティング会社です。インクルージョン&ダイバーシティをCSRではなく、企業としてパフォーマンスを上げる一環として取り組んでいます。

アクセンチュアでは、国籍、人種、性別、文化、障害の有無にかかわらず、多様な社員が働いています。私たちは長く、インクルーション&ダイバーシティに取り組んできました。2018年、他の企業の良い事例から学んだり、取り組みを見直したりするため、障害者雇用に関する調査を行いました。
中村
障害者インクルージョンが企業にもたらす価値には、『社会課題の解決』と『事業への貢献』があります。後者は例えば、事業価値の創造、株価の向上、マーケティングへの貢献です。
中村
数百社を対象に、2年ほどかけてアンケートとインタビューを実施したところ、興味深い結果が出ました。インクルージョン&ダイバーシティが進んでいる企業は、あらゆる業績のパフォーマンスが、他社に比べて優れていることがわかりました。それらの企業は競合他社に比べ、収益が28%、営業利益が2倍、収益性が30%高くなっています。
中村
障害者インクルージョンが、マーケティングへ貢献するという調査結果もあります。商品を購入する意思決定をする人の53%がなんらかの形で障害に関係があることがわかっています。障害者のニーズを無視した商品設計は、53%に及ぶ顧客のニーズを満たせない可能性があるということです。
中村

さらに中村さんは、インクルージョン&ダイバーシティが進んでいる企業45社を調査したところ、障害者インクルージョンを推進するための4つのポイントが浮上してきたと言います。

『1つ目は『障害者雇用の位置づけと意味合いがしっかり定義されていること』、2つ目は『障害は環境がつくるという社会モデルを踏まえ、企業内で環境が整備されていること』、3つ目は『障害者に対する理解の深化と、受け入れ態勢の構築』、4つ目は『障害者の生産性の見える化と、向上にむけた育成プログラムの整備』です。
中村

調査結果の報告のあと、中村さんのご活動の経験や事例を踏まえ、主に発達障害のある社員に向けた「成長と貢献の充足実現」を目指す働き方について共有がありました。

京王プラザホテルとソフトバンクによる、取り組みプレゼンテーション

The Valuable500に賛同した企業である、株式会社京王プラザホテルとソフトバンク株式会社による、好事例のプレゼンテーションが行われました。

今回の会場でもある京王プラザホテルは、すべてのお客さまに安全・快適に利用いただくためのユニバーサルサービスを、長年にわたり取り組んでいます。バリアフリーとエコロジーについて考える社内横断型プロジェクト「バーズアイ」の皆さんが発表しました。

ユニバーサルデザインの客室や、提供しているサポートについては、こちらのサイトをごらんください。

ソフトバンクは、精神障害や発達障害のある社員が、特性を生かしながら働くことができる「ショートタイムワーク制度」について、人事総務統括CSR統括部の横溝知美さんが発表しました。

「ショートタイムワーク制度」とは、障害により長時間勤務が困難な方が、週20時間未満で就業できる制度です。詳しくは、こちらのサイトをごらんください。

障害者インクルージョンを進めることに、不可能なんてない

最後は、キャロラインさん、中村さんによるまとめのトークディスカッションです。モデレーターは司会の岸田奈美が務めました。

岸田
岸田
キャロラインさんは昨日、The Valuable500の賛同企業の皆さんと交流されたそうですね。どのような印象を持たれましたか?
素晴らしい取り組みばかりでした。特にきめ細かい対応が多いことにびっくりしました。日本には謙虚な方が多いと聞いていますが、取り組みにおいても、その人柄を感じます。それは障害者インクルージョンを進める上でも大切な要素なので、世界に誇るべきことだと思います。
キャロライン
岸田
岸田
The Valuable 500の活動について、中村さんはどのような印象をお持ちですか?
障害者インクルージョンは、経営課題として取り組むことが重要です。例えば障害のある社員のために、仕事の切り出しを行うことについて。これは非常に工数がかかるため、生産性という観点だけで見るとどうしても後回しになりがちです。そうしないために、経営上のミッションとして定義づける必要があります。そのために、The Valuable 500がビジネスリーダーのコミットを求めているというのは、すごく効果的だと思います。
中村
岸田
岸田
The Valuable 500は必ずビジネスリーダーの署名を求めていますね。ここにこだわったのはなぜですか?
トップダウンの取り組みでなければ、障害者インクルージョンのはなかなか進みません。また、ビジネスリーダーが行動すれば、他のビジネスリーダーにも影響が起きます。変革を加速させながら広げていくためには、ビジネスリーダーの意思表示が必要です。
キャロライン
岸田
岸田
賛同したくても、なにから始めたら良いかわからない、ハードルが高い、と二の足を踏んでしまう企業の人に、なにを伝えますか?
Join us!(仲間になりましょう!)今日はさまざまな企業の皆さんが参加してくださっていますが、お互いの取り組みから学ぶことはたくさんあります。十分に取り組めていなくても、心配しないでください。コミュニティを作り、情報をシェアしあうことで、前に進むことができます。なにも行動を起こさないというのが一番の問題ですよ。
キャロライン
岸田
岸田
私は各社の取り組みを聞いていて、これは障害のある社員だけの問題ではないなと思いました。私も長時間集中ができず、ミスが続いてしまうと、肩身の狭い思いをすることがあります。多様な働き方が広まれば、たくさんの社員が働きやすい環境になると思うのですが、いかがですか?
そのとおりですね。アクセンチュアでも、障害者インクルージョンを進めることで、全体的なマネジメントの仕組みが見直されることになりました。良いマネージャーが育っていく要因にもなったと思います。
中村
岸田
岸田
The Valuable 500の500社という数字は、これからも増えていくのでしょうか?
いえ、それ以上は受け付けません。500社より多いと、コミュニケーションが難しくなってしまうんです。ということで早いもの勝ちなので、皆さんも急いで参加してくださいね。(笑)
キャロライン
岸田
岸田
最後に、会場の皆さんに向けたメッセージを一言ずつお願いします。
働き手の満足度が高まり、企業にとって戦力となるような雇用が社会に広がってほしいです。そのためにアクセンチュアがお手伝いできることは、相談に乗り、協力していきたいです。
中村
障害者インクルージョンは難しい課題だと思うかもしれませんが、まったく違います。もうどの企業でも解決できることだと、数々の成功事例が示しています。間違っていても、不完全でもいいんです。皆でシェアしあいながら、やっていきましょう。集まってくださった皆さんに、心からお礼を申し上げます!
キャロライン

障害者インクルージョンとビジネスの可能性について、現状や成功例をシェアしあい、今自分たちに何ができるかを考えることができた、貴重な時間となりました。

 

WRITER
執筆・編集
岸田奈美
1991年生まれ、神戸市出身。下半身麻痺で車いすユーザーの母(ひろ実)と、生まれつきダウン症で知的障害のある弟(良太)と暮らす。亡き父の才能をくまなく受け継ぎ、自分が愛するものに関して、100文字で伝わることを2000文字で伝える。株式会社ミライロの創業メンバーで、6年間広報部長を務めたあと、社長特命担当・スロウプ編集長に就任。

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