トップ > The Valuable 500の創設者と支援者が語る! 日本企業が障害者インクルージョンに取り組むべき理由
2020.02.28

The Valuable 500の創設者と支援者が語る! 日本企業が障害者インクルージョンに取り組むべき理由

Photo by 難波由香
INDEX
目次

 

The Valuable 500(ザ・バリュアブル・ファイブハンドレッド)は、2019年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で発足した、世界的なムーブメントです。

 

目的は、ビジネス・社会・経済において、障害者が活躍し、自らの潜在的な価値を発揮できるようにすること。500社の経営者の賛同を募り、2020年のダボス会議で企業名が発表されました。参加企業は現在250社以上。日本企業は15社です。

2020年に東京オリンピック・パラリンピックを迎える日本で、この革新的な動きは、どのように広がっていくのでしょうか。

 

アイルランドから初来日したThe Valuable 500の創設者 キャロライン・ケイシーさんと、日本での普及に協力する日本財団の常務理事 樺沢一朗さんに、お話をうかがいました。

PROFILE
話す人

キャロライン・ケイシー さん
キャロライン・ケイシー さん

The Valuable 500創設者。アイルランド人の社会起業家。Binc代表。

弱視であることを17歳まで知らされずに過ごし、その後も自身の障害を周囲に明かさず、アクセンチュアでコンサルタントとして28歳まで勤務。2001年、インドで象に乗り1,000キロにわたる単独旅行を実現し、25万ユーロのファンドレイジングを行い、視覚障害者を支援する慈善団体に寄付した。

社会をインクルーシブにするためにはビジネスがインクルーシブであることが必要という考えのもと、2019年の世界経済フォーラムでThe Valuable 500の創設を発表し、ビジネスリーダーの賛同を集めている。


PROFILE
話す人

樺沢一朗 さん
樺沢一朗 さん

1972年群馬県生まれ。日本財団常務理事。True Colors Festival総合プロデューサー。Wake Forest University卒業(米・ノースカロライナ州)。1996 年5月にNHKに入局。記者として初任地の沖縄以降、東京での勤務の他、バンコク、ワシントンで特派員を務める。2017年7月より現職。元キックボクサーという異色の経歴を持つ。


REPORTER
レポーター

岸田奈美
岸田奈美

作家・エッセイスト。大学在学中の2010年より株式会社ミライロの創業メンバーとして入社、広報部長を務める。2020年2月より作家に転身。車いすの母と、知的障害のある弟を持つ。


障害者が生む購買力は8兆ドル。ビジネスとインクルージョンの関係性

 

岸田
岸田
キャロラインさん、日本へようこそ!TEDの動画を観て、なんて情熱的な人なんだろう……と、会えるのを楽しみにしていました。

 

キャロラインさんは、その並外れた人生と自らの革新的な気づきを、2010年に開催されたTEDWomenで力強くプレゼンテーションしました。「ビジョンと信念を持ち、信じれば変化することができる」とキャロラインさんは主張します。

わあっ!ありがとうございます。もう10年前の動画なんですよ。
キャロラインさん
岸田
岸田
キャロラインさんが世界中を飛び回り、「インクルーシブなビジネスはインクルーシブな社会を創る」と声を上げ続けるエネルギーは、どこから沸いてくるんですか?
私は、この仕事が心から大好きなんです。私の魂が「(The Valuable 500を)やらなきゃ!」って叫んでいるから、エネルギーの源を説明するのは難しいですね。(笑)私は、父親から人生に大きな影響を受けています。その父が20年前に亡くなった時、心が壊れそうになりました。だけど、前へ進まないと、と思ったんです。それで20年前から、ビジネスにおいて障害者の価値を発揮する活動を始めました。
キャロラインさん
岸田
岸田
なぜThe Valuable 500を立ち上げようと思ったんですか?
私自身、弱視の視覚障害があります。会社で働いていた頃は、障害を隠していたんですけどね。でも、だからこそ見えてくることがありました。障害があってもなくても、誰もが自分の可能性を最大限に発揮して生きるべきですが、会社にいるとどうしても取り残されてしまう人がいます。取り残さないためには、障害者の可能性にビジネスとしての価値を見いださなければいけません。
キャロラインさん
岸田
岸田
障害者が自身の可能性を発揮して働くには、ビジネスにおける価値も必要ということですね。それはなぜですか?
会社はビジネスをしているからです。障害者を取り残さないと言っても、そこにビジネスの価値がないと、時間やお金の無駄なので誰もやりがたらないですよね。
キャロラインさん
岸田
岸田
障害者がビジネスで貢献できるのは、例えばどんなことですか?
障害がある人は、ものごとの捉え方が違います。新しい視点を持っているんです。つまり、ビジネスにイノベーションをもたらすことができます。
キャロラインさん
岸田
岸田
たしかに。スロウプを運営する「ミライロ」も、車いすユーザーの視点で建物の設計アドバイスや、聴覚障害者の視点で手話通訳サービスの提供などを行っています。障害のある当事者の視点だからこそ、きめ細やかで説得力がある、とポジティブな感想をいただきます。
そうです。企業で障害者が活躍するようになれば、製品やサービスにも彼らがイノベーションをもたらします。すると障害者だけではなく、多様な人々が喜び、それがビジネスになります。
キャロラインさん
岸田
岸田
顧客として、障害者がビジネスに貢献するパターンもあるということですね。
世界人口およそ77億人のうち、なんらかの障害がある人は13億人以上もいます。障害者とその友人、家族による購買力はなんと8兆ドルです。とても大きな市場ですよね。
キャロラインさん

 

日本企業の参加を増やすため、日本財団がThe Valuable 500の活動を推進

岸田
岸田
日本財団さんが、キャロラインさんの「インクルーシブなビジネスはインクルーシブな社会を創る」という考えに賛同され、日本企業の参加を増やすため、The Valuable 500の活動を推進することを決めたのはなぜですか?
日本財団は半世紀にわたり、国内外で障害者の支援を続けてきました。主に、直接的な生活支援と、人材育成です。でも、いくら生活と育成を支援しても、彼らの可能性を信じて雇用する企業がなければ、働く場は増えません。障害者とビジネスの関係について、これまでも少しずつ模索をしていたのですが、The Valuable 500の設立を知り、日本財団としてしっかりと方針を持ち、応援しようと決めました。
樺沢さん
岸田
岸田
日本財団が直接障害者を支援していくだけではなく、障害者の活躍を後押しする企業も支援していく、という方針になったのですね。
日本財団にしかできないボランティア活動や公的支援も、もちろんあります。ですが、長い目で見ると、それは永遠に持続可能だとは言えません。インクルーシブな社会を持続するには、民間企業がビジネスとして、障害者を登用していくことが必要なんです。
樺沢さん
日本財団さんがThe Valuable 500の運営を申し出てくれたのには感激しました。世界中の福祉団体と交流がありますが、日本財団のようにアート・スポーツ・ビジネスなど、あらゆる領域で長く活動している団体は、とてもめずらしいんですよ。
キャロラインさん
岸田
岸田
日本財団がThe Valuable 500を運営することで、活動は良い方向へと動きましたか?
もちろん!日本財団と言えば、世界的に福祉の活動をしている人たちの間でとても有名です。日本財団の笹川会長が賛同してくれたことで、彼を知る他の団体の人たちも影響を受け、動いてくれました。
キャロラインさん
岸田
岸田
影響力のある人が、影響力のある人を動かし、賛同が広がっていったんですね。
The Valuable 500の成り立ちも同じです。最初は私一人が声を上げるだけで、「500もの企業から賛同を集めるなんて、頭がおかしいんじゃないの?」とみんなから言われました。でも、ユニリーバ前CEOのポール・ポルマンさんがThe Valuable 500の代表を務めてくれ、リチャード・ブランソンさん(ヴァージン・グループ会長)やジュリー・スウィートさん(アクセンチュアCEO)がサポートしてくれたことで、賛同企業がどんどん増えていきました。ここへ最後のピースがはまるかのように日本財団さんが入ってくれ、強力なチームになりましたよ。
キャロラインさん

 

ビジネスリーダーの選択が、企業の文化を作り、変化をもたらす

岸田
岸田
企業がThe Valuable 500に賛同するには、ビジネスリーダー自らが署名する必要があるそうですが、これはなぜですか?
リーダー自らの選択こそが、企業の文化をつくるからです。リーダーが興味を持っていないことに、社員は協力しようとしません。リーダーが思いを持ち、選択すれば、従業員も変わろうとします。
キャロラインさん
岸田
岸田
なるほど!さきほどの笹川会長の例のように、リーダーがまた別の企業のリーダーに影響を与え、The Valuable 500への賛同が増えていくというのもありそうですね。
まさにその通りです。The Valuable 500の強みは、強い思いを持ったビジネスリーダー同士がつながり、交流できることにもあります。
キャロラインさん
岸田
岸田
午前中は、The Valuable 500に賛同した日本企業の方々との懇談会だったんですよね?早速、日本でもビジネスリーダー同士が交流する場ができたんですね!

この日の午前中、キャロラインさんと樺沢さんは、The Valuable 500の懇談会に出席されました。集まったのは、The Valuable 500の活動に賛同し、署名した日本企業の方々26名。障害インクルージョンに関するアクションの情報交換や、交流があったそうです。

懇談会は、本当に素晴らしかったです!The Valuable 500を頭で理解し、気持ちで受け止めてくれるビジネスリーダーたちが、一斉に集まってくれたんですよ。それも、日本を代表する、名だたる企業ばかり。光栄で、信じられないです!
キャロラインさん
岸田
岸田
懇談会では、どんなことをお話されたんですか?
企業で障害者が活躍し、潜在的な価値を発揮できるようにするために、それぞれが取り組むアクションの「コミットメント」を聴きました。内容がしっかり細かく考えられていて、聞き入ってしまいました。
キャロラインさん
岸田
岸田
樺沢さんは、いかがでしたか?
賛同してくださった企業のリーダーの方々の話を聞き、すでに様々な取り組みをされていることに、改めて感動しました。一方で、自社だけで悩みながら取り組んできたという企業がほとんどで、国際的な水準や潮流の中で、「自社は大したことないんじゃないか」「これからどう進めていけば良いのか」と不安になっているリーダーが多いと感じました。
樺沢さん
岸田
岸田
では、懇談会で各社の情報交換が実現したことは、大きな一歩だったんですね。
はい。国内のつながりはもちろん、海外の企業とも連携すれば、さらに各社が挑戦できることが増え、より多くの障害者が活躍できる環境が実現すると思います。
樺沢さん
樺沢さんの言うとおりです。企業同士でコミットメントを共有したり、相談したりすることで、取り組みの質は上がり、スピードも上がり、安全性も上がります。良いことづくめです。
キャロラインさん
岸田
岸田
いくつかの企業のコミットメントを聞いて、印象的な取り組みはありますか?
そうですね、例をあげるならば……大和ハウス工業株式会社さんが実施している、障害のある人に対するコミュニケーションについて学ぶなど、マインドセットを変えることから始まる取り組みが印象的でした。従業員が障害について学び、街のバリアを感じる体験をして、街を変えていく、という包括的な事業を実践されています。パラリンピック選手の社員が16人も働いている、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社さんは、スポーツとキャリアを同時に形成している良い事例です。全日本空輸株式会社さんと日本航空株式会社さんは、障害のある顧客への配慮を、とにかく徹底的に考えていました。そのほかにも……ここでは言い切れないくらい、素敵な事例がたくさんありましたよ。
キャロラインさん
岸田
岸田
すごいですね!今回、The Valuable 500に賛同したくても、コミットメントとして表明できる取り組みがないから、署名を断念した企業もいくつかあるのではと思います。
残念ながら、そうですね。でも、The Valuable 500が求めるものって、実はハードルは低いんです。いま取り組んでいることがあってもなくても、「これから頑張っていこう」というやる気があれば、賛同してもらって構わないと思います。実際に懇談会でも、あるビジネスリーダーが「私たちは皆さんのように具体的な取り組みをしているわけではないが、署名をきっかけに、これから始めていきます」と宣言していました。The Valuable 500は、その一歩を応援する枠組みであってほしいです。
樺沢さん
The Valuable 500に賛同した時、たくさんの企業がプレスリリースを出してくれましたよね。自分の勤め先が、障害者の活躍について真剣に考えてくれていると知って、勇気を持った社員さんはたくさんいると思います。懇談会でもひとり、そんな印象を話してくれた社員さんがいました。
キャロラインさん
岸田
岸田
たしかに。障害のある社員さんにとっては、とても心強いことだったと思います。

 

オリパラでレガシーを残す今が、スタートのチャンス

「賛同したいけど、うちはたいした取り組みをしていないから……」と尻込みする企業には「だからこそ、これから始めて、ちょっとずつ進まなければ」と伝えています。特に、日本は今がスタートのチャンスです。
キャロラインさん
岸田
岸田
なぜ今、日本はThe Valuable500のムーブメントを進めるべきなんですか?
今年、オリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)が日本で開催されるからです。オリパラはスポーツの祭典ですが、同時にビジネスの祭典でもあります。スポンサー企業、交通機関、ホテル、ショッピング……さまざまな企業に大きな影響が現れます。ビジネスで障害者が活躍するというレガシーを歴史に残し、国のGDPを底上げし、世界を驚かせることができるのは、今の日本だけなんですよ。
キャロラインさん
オリパラの機運は高まっていますが、企業がレガシーとしてなにを残すかと問われると、具体的なイメージが少ないのが現状です。一過性のお祭りで終わるのではなく、オリパラをきっかけに企業で障害者の活躍が増えた、多様な人が働きやすくなったなどの、ポジティブな変化が起きるようにしなければいけませんね。
樺沢さん
そう、今がその時なんです!2012年ロンドンオリパラは、ビジネスにおける障害者のインクルージョンを広めるには、タイミングが少し早すぎました。でも今は、The Valuable 500に賛同する企業が250社以上になり、世界も準備できています。ぜひ、日本から盛り上げていってほしいです。
キャロラインさん
The Valuable 500は、500社の賛同を募っていますが、逆に言えば、あとおよそ250社しかない、とも捉えることができますね。
樺沢さん
そうですよ!  皆さん、急いで私たちのファミリーになってください。500社の内、100社はアジアの企業さんから署名してもらいたいと、個人的に願っています。この記事を読んだリーダーの人は、まず、自分の企業で、どんなことが起きているのかを見てください。きっとびっくりしますよ。
キャロラインさん
岸田
岸田
500社の賛同が集まったあと、キャロラインさんがやりたいことってなんですか?
The Valuable 500がもう必要ない社会にしたいです。そうすれば、私は失業者になってしまうわけだけど。(笑) でも、それくらい、障害者が企業で活躍するのは当たり前で、みんなが勝手に交流して、相談して、良い取り組みをシェアしあうような未来が訪れてほしいですね。
キャロラインさん
岸田
岸田
キャロラインさん、ありがとうございました。日本財団さんとして、樺沢さんはどう思われますか?
日本でレガシーを残すためにも、まずは多くの日本企業に、The Valuable 500を知ってもらい、取り組みへの意欲を持ってもらいたいなと思います。パラリンピック直前の8月に開催するフォーラムでは「賛同したいけど、なにから始めれば良いかわからない」という漠然とした不安を持っている企業の方々に、一歩を踏み出してもらえるような内容を発信していきます。
樺沢さん

 

WRITER
執筆・編集
岸田奈美
1991年生まれ、神戸市出身。下半身麻痺で車いすユーザーの母(ひろ実)と、生まれつきダウン症で知的障害のある弟(良太)と暮らす。亡き父の才能をくまなく受け継ぎ、自分が愛するものに関して、100文字で伝わることを2000文字で伝える。

RELATED

関連記事


POPULAR

人気記事

スロウプとは

これまで届きづらかった“多様な思い”を、多くの人に届けるWEBメディアです。
段差を解消するスロウプに、色んな素材や形があるように。
私たちは、人によって、思いによって、切り口を柔軟に変えて、ミライへと伝えていきます。
昨日よりも今日、今日よりも明日、一つでも多くの視点が、社会に生まれますように。