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2019.11.27

イノベーションを起こす、ビジネスと多様性の関係|経営学者/経営史家・米倉誠一郎

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INDEX
目次

法政大学大学院教授・一橋大学名誉教授・ハーバード大学Ph.D.として教鞭を執る、米倉誠一郎さん。企業経営の歴史的発掘プロセス、特にイノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセスを専門とし、多くの経営者や若手起業家から熱い支持を受けています。米倉さんに、イノベーションを起こすための多様性について伺いました。

PROFILE
話す人

米倉 誠一郎(よねくら せいいちろう)
米倉 誠一郎(よねくら せいいちろう)

1953年東京都新宿区生まれ。一橋大学社会学部・経済学部卒業後、一橋大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得。1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、97年より同大学イノベーション研究センター教授。
自らが語る弱み(バリア)は「飽きっぽいこと」。逆手に取って語る強み(バリュー)は「新しくて楽しいことが次々と流れ込んでくる、未知の世界にいつもチャレンジできた」。


INTERVIEWER
聞く人

垣内 俊哉(かきうち としや)
垣内 俊哉(かきうち としや)

1989年に愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、国内で13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立した。高齢者や障害者など誰もが快適なユニバーサルデザインの事業を開始、障害のある当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修を提供する。


社会の課題をビジネスで解決すれば、チャンスが生まれる

垣内
垣内
米倉先生が考える、イノベーションとはなんですか?
イノベーションには「技術の革新」という意味もありますが、それだけじゃなくて「社会に新しい価値を生む新しい組み合わせ」という広い考え方もイノベーションです。また、社会課題を税金や国際援助ではなく、ビジネスや協働作業などの画期的方法で解決するソーシャル・イノベーションもそのひとつです。
米倉さん

ソーシャル・イノベーションは、少子高齢化、子育て、介護、貧困、教育など様々な社会課題を解決するための革新的な解決法です。1983年、ムハマド・ユヌス氏がバングラデシュで、貧困層向けに少額融資を行うグラミン銀行を設立。貧困削減に貢献し、2006年ノーベル平和賞を受賞しました。

ユヌスさんからグラミン銀行の話を聞いた時、目から鱗が落ちました。今まで政府や国際機関が税金を使って解決してきたことを、民間がビジネスの手法で解決できるというのですから。
米倉さん
垣内
垣内
日本でも、ソーシャル・イノベーションは増えてきていますか
徐々に増えているとは思います。まだスピードは遅いですが。
米倉さん
垣内
垣内
なぜ遅いんでしょう?
二つの阻害要因があると思います。一つは、社会課題をビジネスで解決するという新しい発想に多くの人がついてきていないことです。もう一つは、そもそも「ビジネス」という言葉に対して悪いイメージが未だにある。社会課題をビジネスで解決することに、「お金儲けは汚い」「公平性が保たれない」とか。でも、全部ただの思い込みです。垣内さんは、Uberは使ったことがありますか?
米倉さん

Uberは、アメリカで誕生した自動車の配車サービスです。タクシー運転手ではなく、一般人が空いた時間を利用し、自分の車で、スマホアプリを通じてマッチングしたお客さんを乗せることができます。2019年現在、世界65ヶ国・600都市以上で広がっています。

垣内
垣内
ロサンゼルスで初めてUberを使った時、感動しました。「車いす対応車両を呼ぶ」という、日本版Uberには無い機能があって。ちゃんとリフト付きの車が来てくれましたよ。
へー、すごいですね!
米倉さん
垣内
垣内
リフトなんて高価な装備を、どうして設置しているのかと運転手に尋ねたら「車いすユーザーがたくさん乗ってくれるから、初期投資が多少高くても、こっちの方が儲かるんだ」と言われて、びっくりしました。
素晴らしい。それこそがソーシャル・イノベーションですよね。空き時間で車を運転して稼ぎたい一般人と、すぐに車に乗りたい一般人をマッチングすれば、タクシーが足りない地方の過疎地も、交通手段がグッと広がります。さらに、移動しづらくて、困っている高齢者や障害者の課題の解決にもなります。にもかかわらず、日本では規制が多くて自由に広がっていない。
米倉さん
垣内
垣内
政府がやっていたことを、あえてビジネスにすることで競争が起こり、サービスの品質が良くなり、結果的に解決できる範囲も広がることがありますね。
そのプロセスで不公平や事故が起きたら、それはまたビジネスやテクノロジーで解決すれば良いことです。ビジネスでできることは、ビジネスに任しておけばいいと、僕は思います。お客さんのニーズに応えて、社会の課題を解決して、利益が生まれて、持続していく……この流れが一般的になっていないのは、本当に残念です。
米倉さん

 

70年間変わらなかった障害者手帳のあり方が、変わっていく

垣内
垣内
障害者が鉄道で割引を受けたりする時に使う「障害者手帳」で、最近ソーシャル・イノベーションの種を蒔くことができました。障害者手帳はこの70年間ずっと、窓口で現物を見せなければいけないというルールがあったんです。
こんなにIC化やキャッシュレスの波がきているのに。障害者だけ不便なのはおかしいですよね。
米倉さん
垣内
垣内
本当にそうです。そこで「ミライロID」というスマホの障害者手帳アプリを作って、リリースしました。

ミライロIDは、障害者手帳のスマートフォン向けアプリ。ユーザーは障害者手帳に記載の情報、使用する福祉機器の情報などを登録し、スマートフォンの画面で提示できます。2019年現在、日本航空、全日本空輸、西武鉄道、日の丸交通などで、障害者手帳の代替手段として使用が認められています。

垣内
垣内
民間がやることで、最初は反対もありました。でも、米倉先生をはじめ、たくさんの方に応援してもらい、障害者手帳の代わりとして認めるという企業さんが増えました!現物確認という手間を減らせば、障害者の利便性だけでなく、企業側の利便性も高まるからです。
いやあ、その流れは当然で、本当に遅いくらいだと思いますよ!しかも、電子化されたデータからさらに新しいビジネスが生まれる可能性もある。Uberのリフト車のように、呼び出された瞬間に必要な器具やケアが分かって入れば、稼働率は上がるし、関連ビジネスとの連携も拡大する。
米倉さん
垣内
垣内
私たちが言い出さなければ、70年が経ったこれから先もずっと、変わらなかったかもしれません。民間から変えていけることはたくさんあるな、と思いました。
障害者手帳とテクノロジー、まさにソーシャル・イノベーションです。
米倉さん
垣内
垣内
これまで、ユニバーサルデザインやバリアフリーは、ソーシャル・イノベーションが起きづらい分野だったと思います。経済的市場として認知されていなかったので。
おかしな勘違いですよね。障害者と言うと他人事だと思われがちですが、障害者のニーズは、高齢者のニーズと一緒です。これから高齢者がどんどん増える日本で、障害者にとって便利なように作られた製品やサービスは、絶対に普通の高齢者にとっても求められるものです。
米倉さん

バリアフリーの分野でイノベーションを起こすには、体験が重要

垣内
垣内
ユニバーサルデザインやバリアフリーの分野で、イノベーションをもっと活発に起こしていくために、何をすれば良いのでしょうか?
まずは皆が自分事として認識できる、体験の機会を作ったら良いと思います。私はあるNPOのワークショップで、車いすに乗って、豊洲や博多の街の多目的トイレを探訪しました。あれはとても良かったです。
米倉さん
垣内
垣内
多目的トイレ、なかなか見つからないですよね?
そうそう。さらにびっくりしたのが、ホテルに入った時。「このホテルは多目的トイレあります」と大きく案内があるんですが、トイレの入り口に大きなゴミ箱があって、車いすで入ることができませんでした。しかもトイレ周りの操作ボタンに手が届かなくて。これでは、障害者の方はもちろん高齢者の車椅子対応もできないと思いました。
米倉さん
垣内
垣内
ああ……よくある、残念なパターンですね。法律や条令に従って作ったら、実は使いづらいという「なんちゃってバリアフリー」が多いんです。
頭で理解したつもりになっていると、そうなってしまうんですね。
米倉さん
垣内
垣内
「なんちゃってバリアフリー」も、ビジネスで解決できると思っています。私たちは、5,000人の障害者に、遠隔でアンケートに答えてもらったり、施設の調査に行ってきてもらったりして、データを受け取る代わりに報酬を払うサービスを運営しています。
うん、良いですね。イノベーションを起こす視点を作るために、障害者だけではなく、皆が体験すべきだと思います。アイマスクをつけて視覚障害者の体験をしたり、お腹に重りをつけて妊婦さんの体験をしたりすると、どれだけ大変か、身をもって知ることができます。すると、色々な製品やサービスに関するアイデアが湧いてきます。
米倉さん

若者が自己肯定感を持てない日本。改善の鍵は、多様性と判断軸

垣内
垣内
米倉先生は、イノベーションを起こすには多様性も必要だとおっしゃられてますね。以前読んだ米倉先生の記事で「日本人の自己肯定感が低いのは、多様性が無いからだ」と書かれていて、なるほどと思いました。

平成26年内閣府は、7ヶ国(日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデン)13歳〜29歳の若者を対象に、自己認識の調査を実施しました。自分自身に満足していると回答した者の割合は、日本が45.8%と最も低く、アメリカが86.0%と最も高いという結果に。日本の若者は自己肯定感が低く、将来を悲観する傾向にあることが明らかになりました。

日本の若者の自己肯定感が低いのは、評価軸の多様性が少ないからなんです。極端に言えば、僕も垣内さんも東京大学を卒業していませんよね。これは現状の狭い評価軸からすると、「落ちこぼれ」ということになってしまいます。
米倉さん
垣内
垣内
評価軸が“学歴”しかないと、そうなりますね。
僕は小さい頃から、足が速いことだけが自慢でした。でも、先日ある小学校で「運動会の徒競走は順位をつけず、皆で手をつないでゴールしましょう」というのをやっているのを見て、頭にきてしまって。これって、足が速いという特技がある子どもを、馬鹿にしているのと一緒じゃないですか。
米倉さん
垣内
垣内
そうですね。足が速いのも、勉強ができるのも、掃除が上手いのも、何かしら特技があるというのは個性であり、価値だと思います。
その個性を早くから否定されてしまうような環境にいる日本の若者が、自分に価値が無いと思うのは当然です。アメリカには、ハーバード大学のハワード教授が主張する「マルチプル・インテリジェンス」という考え方があります。
米倉さん

「マルチプルインテリジェンス」では、人間は普段「8つの能力」を働かせて、生活していると言います。誰しも8つの中で秀でている部分や得意分野があり、それらを見極めて学習すると、才能を大幅に伸ばすことができるという考え方です。

(1)言語能力……話すこと、書くこと

(2)論理的・数学的能力……物事を筋道立てて考え、予測すること

(3)空間能力……視覚的に捉え、絵を描くこと

(4)運動能力……身体を自由にコントロールし、運動すること

(5)音感能力……リズム感や音感に優れていること

(6)人間関係形成能力……人との関わりやコミュニケーションが好きなこと

(7)自己管理能力……自立心や決断力があり、独自性を見いだせること

(8)自然共生能力……環境、自然、動物などに関心が高いこと

思い出してみてください。小学生の頃、この能力に当てはまるクラスメイトがいたでしょう。植物のことならなんでも知ってる人、地図を覚えるのが得意な人、話が面白い人……。それらは皆個性として尊重しなければならないのです。
米倉さん
垣内
垣内
いましたね!能力の種類は、生まれた時から決まっているのでしょうか?
いやいや、最初は1つの能力だけと思っていても、他の能力が花開くこともありますし、真逆の能力に移行することもあります。本当に優れたスポーツ選手には極めて高い知性を持つ人がいます。はじめは運動ばかりしていても、その背後にある理論や法則性、栄養学や筋肉の動きなどに関心がどんどん広がっていくのです。
米倉さん
垣内
垣内
いろいろな側面から見て、認めてあげることが大切なんですね。私も、自分のコンプレックスが価値に変わった瞬間がありました。学生時代に勤めたアルバイト先のWEB制作会社でのことです。てっきりデスクワークかと思いきや、任せてもらったのは営業でした。車いすで営業先を回るのは大変でしたが、3ヶ月やってみれば、いつの間にか営業成績が1位になったんです。なぜなら、お客さんに覚えてもらいやすかったからです。
車いすの営業マンが来たぞ!って、印象に残りますからね。良い話だ!
米倉さん
垣内
垣内
私にとって障害はネガティブなことでしたが、営業を任せてもらえ、お客さんに覚えてもらえ、「価値」だと認めてもらえたことで、考え方が変わりました。周囲が認め、伸ばしてあげることで、次の一歩を踏み出せるんだと思います。
そうですね。私はベンチャー起業家にアドバイスをしている立場だけど、実は経理とか財務といった数字が大の苦手なんですよ。だから、ドラッガー氏の「生まれながらのリーダーはいない」という言葉に出会ったときは、ずいぶん救われました。人は苦手なことを克服しなければと思いがちだけど、それは得意な人に任せて、自分は自分の得意なことで力を発揮しよう、という考え方です。
米倉さん
垣内
垣内
適材適所を見つける、ということですね。それから、苦手なことは他の人に任せるようになったんですか?
例えば、僕はブラインドタッチができません。最初は自分で勉強しようと思って、「特打」なんていう学習用ソフトも買ってきたんです。すると、秘書から「先生!そんなことは自分たちに任せて、空いた時間で、先生は社会を良くすることを考えてください」と言ってもらえて。いいチームに恵まれたな、と思いました。
米倉さん
垣内
垣内
自分と相手の苦手分野と得意分野を認識し、認めて、補い合った瞬間に世界が開けたんですね。若者が自己肯定感を持って生きるためにも、ビジネスとして成果を出すためにも、多様な判断軸が必要ですね。
多額の負債、長引く不況、そして東日本大震災という試練に直面している日本。だが、国内、海外問わず、すでに「未来」は起きている!歴史を見ても、西山弥太郎、大隈重信はじめ、困難を乗り切り、大変革を起こした先例がある!本書では、そうした事例を多面的に考察し、日本のパラダイム・チェンジの方向性を導き出す。「静かなるジャスミン革命」は、強力なリーダーや既存の組織によってではなく、一人ひとりの小さな動きによって「創発的に」起こる――。未来への希望が詰まった、著者渾身の一冊。 この他「イノベーターたちの日本史(東洋経済新報社)」、「松下幸之助:きみならできる、必ずできる(ミネルヴァ書房)」なども好評発売中。
WRITER
執筆・編集
岸田奈美
1991年生まれ、神戸市出身。下半身麻痺で車いすユーザーの母(ひろ実)と、生まれつきダウン症で知的障害のある弟(良太)と暮らす。亡き父の才能をくまなく受け継ぎ、自分が愛するものに関して、100文字で伝わることを2000文字で伝える。

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